『アウトロー 近世遊侠列伝』

高橋 敏 (編)


定 価: 1,925円
発売日: 2016年9月30日
判型/頁: 四六判 並製 256頁
ISBN: 9784906822737

いま、ふたたびよみがえる侠客たち
かれらの実像に、新史料をもとに迫る!!

◉登場人物

国定忠治(上州)―遊侠の北極星
竹居安五郎(甲州)―新島を抜け甦った甲州博徒の武闘派
勢力富五郎(総州)―江戸を騒がせた嘉永水滸伝の主役
小金井小次郎(武州)―多摩を仕切った、新門辰五郎の兄弟分
黒駒勝蔵(甲州)―清水次郎長と対決した謎多き甲州の大侠客
吉良仁吉(三州)―義理をとおした若き三河博徒
西保周太郎(甲州)―短い一生を全力で駆け抜けた幕末期 甲州博徒の草分け
佐原喜三郎(総州)—八丈島から島抜け
石原村幸次郎(武州)―関東取締出役の無力を思い知らせた孤高の博徒
小川幸蔵(武州)―武州世直し一揆を鎮圧した博徒
原田常吉(三州)―「実歴談」に見る幕末明治期親分の動向


◉本書の特色

・各博徒の生い立ちや死没理由、仲間や抗争相手など、調べ書を掲載。
・博徒の勢力範囲を地図で示す。
・幕末・明治年表付き。

<アウトロー展示への挑戦> 高橋 敏

 二〇〇四年、国立歴史民俗博物館では二七名の歴史学のみならず多分野からの英知を集め、三年の準備期間をかけて「民衆文化とつくられたヒーローたち―アウトローの幕末維新史」と題して、開館二〇周年記念展示を開催した。
 ところが、当初移動展示を内諾していた群馬県立歴史博物館、当時の峰岸純夫館長から、オープン直前、公序良俗に反する怖れありと拒絶された。
アウトローへの拒否反応は内部抑止力となって暗黙の自己規制となっていた。三か月に及んだメイン展示は心配されたその筋との一切のトラブルもなく好評のうちに無事終わった。
 これが最初で最後と覚悟していたところ、二〇一一年、突然、府中郷土の森博物館若手の花木知子学芸員から、博徒小金井小次郎を取り上げ「アウトローたちの江戸時代―一九世紀の府中の世相」の展示の相談をもちかけられた。驚いて府中博を訪れ、館長さんにお会いし、意気込みを確認、その勇気に敬意を表し、全面的に協力を申し出た。
 展示は地味なフィールド・ワークを重ねた府中宿・周辺の分析から、旧来の小金井小次郎を一新した実像に迫るもので、地域の人びとに喜ばれたとうかがっている。
 二年後の二〇一三年、甲州博徒の金城湯池、山梨県の県立博物館でそのものズバリの「黒駒勝蔵対清水次郎長―時代を動かしたアウトローたち」が企画され、大々的に開催された。平川南館長、担当した高橋修学芸員以下、館を挙げて周到な準備体制のもと、私もかつてのフィールドということもあって、助言もし、北杜市在住の旧知の菅原文太さんを引っ張り出すなど、及ばずながら協力した。
 展示は山梨県のみならず広く好評をもって迎えられ、なかでも高橋修さんの勝蔵をはじめとする博徒群の個別分析は、アウトロー研究に新たな地平を展望するものになった。

<博徒史研究会の発足へ>

 このきびしい状況のなか、アウトローの展示に踏み切った、若手研究者の勇断をこのまま終わらせてはならない。ささやかでもいいから、展示の研究成果を、遊侠列伝という人物史にして記憶にとどめておきたいと、博徒史研究会なる小結社を思い立った。
 花木知子・高橋修氏に加えて、すでに「天保水滸伝の世界」の展示を担当した実績がある米谷博氏、武州の博徒史に新境地を拓いている若手高尾善希氏、愛知県吉良町に根を下ろして三河博徒史、とくに吉良仁吉をライフワークとする冨永行男氏に呼びかけた。
 かれこれ五年、多忙な現役と年金暮らしの暇な老耄が、研究会を幾たびか重ねた。かくして国定忠治をはじめとして、勢力富五郎・武居安五郎(吃安(どもやす))・黒駒勝蔵・小金井小次郎・吉良仁吉・原田常吉など、一一名の列伝を執筆収載することが決まり、上梓の暁を心待ちにしている次第である。

<最後に笑った甲州博徒> 高橋 修

 「風の中のあいつ」(一九七三年)は清水次郎長のライバルとして知られる博徒、黒駒勝蔵を主人公にした異色のテレビドラマである(全話DVD化)。勝蔵役は若き日のショーケンこと萩原健一が演じている。
 幕末から明治という時代の転換期を全力疾走で駆け抜けたアウトロー群像が魅力たっぷりに描かれるなかで、なにより筆者が興味を抱いたのは、彼と敵対した国分三蔵(こくぶのさんぞう)という実在の博徒である。
 物語の要所で姑息な手段を用いながら勝蔵を追い詰めたいわゆる敵役だが、三蔵を演じた小松政夫の人徳からか、不思議と憎めないキャラクターでもあった。
 さて、三蔵に注目した理由であるが、それは劇中において彼はいつも鉄砲を携行していたのが、印象的だったからである。同ドラマの原作は子母沢寛の小説『富嶽二景』で、彼は次のように描写されていた。
 「逃げ三蔵などと小狡い名前になっているが、鉄砲なんかを持出して、ずいぶん苦しめやがった」
 恐らくこの辺の描写から小松政夫がキャスティングされたものと推察するが、気にかかるのはその根拠である。
 国分三蔵の動向についての数少ないまとまった記録として「口供書」が挙げられる。これは黒駒勝蔵が捕縛された際に作成された供述調書で、子母沢寛が小説を執筆するにあたり依拠した主要文献でもある。
 「口供書」によれば、勝蔵が三蔵の自宅を襲撃した際、「(三蔵の)居宅内ヨリ発砲致し、(勝蔵側は)寄り付き兼ね候」と記されている。恐らく子母沢寛はこのわずか一文から着想を得て、独自の三蔵像を組み立てたのであろう。丹念な資料読解ぶりと想像力の旺盛さに敬服した次第である。
 およばずながら筆者もその姿勢に見習いながら『アウトロー―近世遊侠列伝』において、「黒駒勝蔵」伝を執筆した。小説・テレビでは、三蔵は勝蔵一派に斬殺され、脇役に甘んじた格好であった。だが、筆者は勝蔵の関連史料を追うなかで、三蔵こそ甲州博徒を影で掌握した大親分であると確信するに至ったのである。
 “最後に笑ったのは三蔵―その謎解きについて”はぜひ、同書を御高覧いただきたい。

●高橋 敏(たかはし・さとし)

1940年静岡県生まれ。東京教育大学文学部卒、1965年同大学院文学研究科修士課程修了。1990年「近世村落生活文化史序説 上野国原之郷村の研究」で筑波大学文学博士。

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