『日本人の食性』

ーー食性分析による日本人像の探究

南川 雅男


定 価: 2,640円
発売日: 2014年07月17日
判型/頁: 四六判 上製 320頁
ISBN: 9784906822119

縄文時代以来、日本列島に住む人々は何を食してきたか?食性分析の第一人者が、「食」から見えてくる日本人像を明らかにする。

最新の科学の成果で、ここまでわかった。日本列島の人びとは何を食べて生きてきたか!

◉食物利用のパターンを知る
◉自然食の時代
◉海洋動物資源を食糧とした人びと
◉歴史時代の食性
◉現代日本人の食性
◉食性分析法の成立
◉食物利用パターンを再現する
◉日本人の食性の由来と未来

<日本人はどんな食べ方をしてきたか?>

 日本人は、めぐまれた自然環境を享受していることを自認してきた。
 国土の大半は山林に覆われており、動植物が豊かである。島嶼を分かつ海と長い海岸線を持つことから、豊かな生物資源が生育している。おかげで、われわれは自然の恵みを食糧とすることにそれほど不自由しなかった。
 乏しい原始生活と思われていた縄文時代でさえも、じつは、森と海からの資源をたくみに利用することのできる、想像以上に余裕のある社会ではないかと考えられるようになった。三、四千年前の採集狩猟時代のこととはいえ、もしそのとおりなら、現代人としてもなんとなく懐が温かく感じられる。そのようなことが、期待としてではなく、なにか根拠のある証拠で示されれば、なおさら嬉しいことである。これは、今や日々の食生活を輸入品に頼らざるをえなくなった現代日本人としての、いわば気負いかもしれない。
 食性分析という研究法は、動物の食べた食糧の種類と特徴を再現するための研究、あるいはその応用である。先史人の食資源の証拠を、化学分析を手段として結果が数値で考察される分野のせいか、考古学や歴史学では、せいぜい新しい技術のひとつ程度にしかみられてこなかった。
 原因のひとつは、食性分析が、その方法で明らかにしたことの意味を語ってこなかったことにある。一般には、なじみのすくない方法で結果を比較するため、どうしても食性分析の方法そのものについての関心に応えることに終始してしまいがちだった。
 自然科学の在り方として、人間の領域に踏み込む冒険を避けてきたこともあるかもしれない。
 ともあれ、一人ひとりの骨成分の分析があきらかにした食性は、縄文時代の採集狩猟漁撈民と弥生時代以降の農耕民をはっきりと区別した。地域色がすっかりなくなってしまう傾向は、弥生時代以降、現代までつづいている。

<日本人の「食」の未来>

 時代も地域も異なる集団の食べた資源を、同じ方法で比較して浮かび上ってきたのは、日本人は、新しい食材を柔軟に受け入れることができる民であることである。一方で、食糧資源の調達の仕方については、採取狩猟漁撈の時代から取りつづけてきた自然に依存する姿勢を、いまだに受け継いでいるようにみえる。
 人びとは、自然食の時代には、大きな恩恵を与えつづけた豊かな自然を、畏怖と尊敬の対象としながら収奪してきた。この姿勢は、その後、農耕の時代に移行し、人口が二ケタふえた後でも捨てきれずに、引き継がれてきた。輸入食品に頼る現代人の姿勢は、自国の自然を尊重するいっぽうで、世界の生態系の包容力を過信し、その懐を無責任に頼みとする姿勢とみえなくもない。これは縄文人の流儀である。
 日本人の未来のためには、祖先に何を食べてきたかを問うより、どんな食べ方(資源調達)をしてきたかを問いかけたい。

●南川 雅男(みながわ・まさお)

1948年、大阪生まれ。 北海道大学大学院水産学研究科博士課程単位取得退学。水産学博士。専門は生物地球化学、環境人類学。北海道大学名誉教授。09年日本地球化学会学会賞受賞。

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