『縄文社会と弥生社会』

設楽 博己


定 価: 2,640円
発売日: 2014年07月17日
判型/頁: 四六判 上製 320頁
ISBN: 9784906822119

考古学の最新成果から見えて来た縄文人の暮らしとは?そして弥生人の暮らしとは?何が同じで何が変わったのか?

縄文時代から弥生時代に移り変わったとき、人びとの暮らしは、なにがどう変わったのか!

◉食の体系
◉ムラの姿の変貌
◉縄文・弥生時代の男女
◉人生の節目
◉祖先のまつり
◉受け継がれる縄文文化
◉生産と流通の変化
◉クニへの歩み

<『縄文社会と弥生社会』出版にあたって>

【小学二年生から「考古ボーイ」】

 考古学者には、二つのタイプがあります。ひとつは子どものころに遺跡を歩いて遺物を採集する趣味をもっていたタイプで、もうひとつは大学に入ってから考古学を学習するようになるタイプです。
前者を「考古ボーイ」と呼んでいますが、私は小学校二年のころから群馬県前橋市の遺跡をうろうろしていたので、間違いなく前者のタイプです。
西新井というのが足しげく通った場所で、縄文後・晩期の遺跡でした。関東地方の縄文後・晩期は、狩猟が活発化したために石鏃が多量につくられ、ミステリアスなミミズク土偶、土版、岩版といった、わけのわからない装飾の豊かな遺物がたくさんつくられた時代で、そうした美しく珍奇なものを見つけたときのトキメキが忘れられず、中学生になっても採集をつづけていました。
ここで採集した土製耳飾りをテーマに大学の卒業論文を書きましたが、本書も一節をそれにあてています。
この遺跡がつい先日発掘調査され、私も助っ人で学生を連れて発掘に参加しました。出土した土器の整理を任されたので、大学に持ち帰り、学生にひたすら土器の表面にあいた穴を探してもらっています。穀物の圧痕がついていないか、探るためです。
土器は粘土をこねてつくったものですが、その際にいろいろなものが混じります。
植物の小さな種実も紛れ込む場合があるのですが、土器を焼いたときにそれが焼失して圧痕が残るのです。圧痕に歯科医用のシリコンを流して型をとり、それを電子顕微鏡で観察して種を特定する作業が、全国各地で進行しています。

【時代の移行期への関心】

 弥生時代に先立つ縄文後・晩期に、すでに農耕がおこなわれていたのではないかという意見が根強くありますが、それを検証するための作業であり、本書も現状での成果を踏まえながら、農耕を含む縄文時代の生業と弥生時代の生業の違いを整理しました。
大学院に進んでから、縄文時代が弥生時代へとどのように移行していくのか知りたくなりました。
考古学は、時代を限定して研究する傾向があります。二足のわらじをはくほど甘くなく、それぞれの時代をきわめねばならないから当然なのですが、移行期を扱うには両方の時代のことを調べなくてはなりません。
とくに東日本の弥生文化は西日本とくらべて縄文文化の伝統が根強く残るのでそうした方法が必要になりますし、ステレオタイプではない弥生文化形成の様態やその理由を探っていく醍醐味もあるのです。

【東日本からの視点】

 本書は、私の住む東日本の特性をいかして、これまであまり顧みられることのなかった弥生文化における縄文系の文化に焦点を当てたものです。「弥生再葬墓」という東日本特有の墓制や、土偶の変化など、学位論文の内容も盛り込みました。
西日本でもそうした視点は今後重要になるでしょう。たとえば北部九州における弥生土器の成立にも、大陸系文化の代表である青銅器のひとつ、銅鐸の成立にも、縄文土器の文様が深く関与しているのです。
弥生時代から古墳時代への移行問題に正面切って取り組んだ経験はありませんが、イレズミの変容や方相氏という呪術師の導入など、漢代の文化的な影響という側面から私なりの理解を示しました。
ご一読いただき、ご批判を頂戴できれば幸いです。

●設楽 博己(したら・ひろみ)

1956年、群馬県生まれ。筑波大学大学院博士過程単位取得退学。専門は、日本考古学。国立歴史民俗博物館考古研究部、駒沢大学文学部を経て、現在、東京大学大学院教授。

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