『近世百姓の底力』

――村からみた江戸時代

渡辺 尚志


定 価: 本体2,400円+税(税込2,592円)
発売日: 2013年11月22日
判型/頁: 四六判 上製 320頁
ISBN: 9784906822089

近世の百姓と村が持っていた「土地と家を維持する能力と仕組み」を、千葉と長野の具体的事象を元に描く。

◉第1章 江戸時代の村とはどのような組織か
◉第2章 村の具体像を知る
◉第3章 村と家をミクロに見る—本小轡村と藤乗家
◉第4章 上層百姓藤乗家と村人たち
◉第5章 一八・一九世紀における上層百姓と村
◉第6章 訴訟にみる百姓と武士—仙仁村一件
◉終 章 江戸時代の村
◉史料篇 本小轡村・仙仁村関連史料

<村を論じる楽しさと難しさ>

 私は、江戸時代の村を研究している。誰もが、村といえば一定のイメージを思い浮かべるだろう。田園風景・田植え・稲刈り・里山・棚田等々。そこから、江戸時代の村についても、大枠のところは共通認識ができているように思われがちだが、村とはけっして自明の存在ではない。
 江戸時代の村は、一面で、行政単位、村請制の単位であった(これを村請制村もしくは行政村という)。他方で、村人たちの生産と生活を支える共同体という性格ももっていた。この両者が一致していれば話は簡単で、それこそが村だということになる。しかし、ことはそう単純ではない。

<行政単位と共同体>

 ある程度の規模をもつ村請制村では、そのなかに複数の集落があるのが一的だった。また、同族団や一族・親類、五人組や近所、若者組・娘組、信仰・金融組織としての講、職人・商人の同業者組織といったように、村には多様な結びつきが存在していた。
 村の多様な相互扶助機能・共同体機能は、村請制村が一元的に担っていたのではなく、多様な集団によって分有されていた。なかでも、村人の土地所有権を保証するなど、とりわけ重要な役割を果たしていた集団を共同体とよぶのである。集落が共同体の場合もあれば、村請制村が共同体と重なることもあった。
 村請制村はその領域や構成員がはっきりしており、それを見分けるのは比較的たやすい。しかし、共同体としての村は制度として定められたものではなく、村人たちが生産と生活の必要から自生的につくった社会的結合である。したがって、その存在を突き止めるには、古文書の分析から当時の村人たちの社会関係を丹念に復元していく作業が必要なのである。村人たちが生きていくうえでもっとも不可欠な集団とは何か。その答え探しが、村を研究する大きな楽しみである。

<村を論じる難しさ>

 それについて、私は以前、「村落共同体を論じる際には、村請制村やそのなかの集落を無前提に共同体とするのではなく、土地所有を基軸とした諸機能が基本的にどの集団によって担われているのか、慎重に検討しなければなりません」と述べた(拙著『百姓の力』柏書房、二〇〇八年)。
 ところが、私の著作は、研究者によって「(渡辺は)行政村と村落共同体を同一視し、かつ自明の前提とした上で、…数多くの在方文書の検討を進めている」と紹介されている(岩間剛城「史学・経済史学の研究動向」『年報村落社会研究』四六集、二〇一〇年)。私の主張とは正反対の誤読がなされているのである。
 ここに、村を論じる難しさが示されている。しかし、課題は前向きに解決しなければならない。そのための私なりの努力の最新成果が、このほど敬文舎から刊行した『近世百姓の底力』である。村を論じる楽しさと難しさに関心のある方は、ぜひひもといていただきたい。

●渡辺 尚志(わたなべ・たかし)

一橋大学大学院社会学研究科教授。1957年、東京都生まれ。 専門は日本近世村落史。 おもな著書は『百姓たちの幕末維新』『日本人は災害からどう復興したか』。

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