『徳川社会論の視座』

水本 邦彦


定 価: 2,640円
発売日: 2013年01月
判型/頁: 四六判 上製 320頁
ISBN: 9784906822010

徳川日本が持った価値観念や社会システムをありのままに観察し、自立した「異文化」の社会として捉え直す。

◉第1講 徳川日本とはなにか
◉第2章 「身分型自力」の社会論
◉第3章 彦根城下・町人社会の形成
◉第4章 海辺村からみた幕藩体制
◉第5章 徳川の社会と自然
◉第6章 朝尾学説に学ぶ—小領主論と近世社会論
◉第7章 道の名前

<『徳川社会論の視座』発刊に寄せて>

 五味文彦氏が、「日本歴史 私の最新講義」『日本史の新たな見方、捉え方―中世史からの提言』の「おわりに」で、「日本史の論文の書き方」について触れられている。
本文 三から五章までの構成が望ましい。三章は「序・破・急」、四章は「起承転結」という構成、とされている。ちなみに、氏の新著は「起承転結」の四章構成である。
いうまでもなく、前者は、雅楽・能楽など日本の伝統音楽から芸道一般にまで広く適用される三段構成を示す言葉であり、後者は、漢詩の「絶句」に始まる四段構成の概念である。

<三(楽)章か、四(楽)章か>

 研究論文もまたひとつの作品であると考えたとき、氏の指針は的確であり、論文作成にあたっては、多かれ少なかれ、研究者が意識するところだろう。
 氏の指摘を受けて、音楽にはまったくの素人の私が、臆面もなくべートーヴェンを例にとれば、彼の交響曲は第六番「田園」を除いて正統派の四楽章編成。対してピアノソナタは、「熱情」「月光」「悲愴」など、みな三楽章編成である。
 論文の場合も、取り上げるテーマや題材によって三章にするか四章にするか変わってくるといえるが、それとは別に、その構成選択には、各研究者の性格や好みもかなり色濃く投影されるように思える。
 かくいう私は、もっぱら三章構成の論文が多い。今回、敬文舎から刊行していただく『徳川社会論の視座』も、目次を見れば一目瞭然、史料整理中心の第三講以外はすべて三章構成である。

<「組曲」で本の構成を!>

 じつは、四章構成の論文を書いたこともあるのだが、なにか、だらけてしまい、しっくりいかなかった。どうやら第二章をうまく書けないのが原因らしい。そんなことを自覚して以後、自分は「悲愴」か「テンペスト」でいくぞと、もっぱら三章構成で臨んできたのである。
 論文の場合はそれでよかったのだが、ページ数の多い一冊の本となるとそういうわけにもいかない。どうしても章の数が足りなくなるのである。
場合によっては何章かをいくつかの部にまとめて、三部構成などにすることも可能だが、いつもそうはいかない。前著の『徳川の国家デザイン』(小学館)や今回の拙著は、各章の独立性が高く、その方式ではうまくいかなかった。
 そこで密かに意識したのが「組曲」の考え方である。曲想の異なるいくつもの楽章を組み合わせながら、全体としてひとつの作品に仕上げていく「組曲」方式。
 結果については読者の評価に任せるしかないが、本著が、そんな技法を会得したいと思いながら取り組んだ作品であることを、ここでこっそり白状しておきたい。
 もっとも、「馬鹿のひとつ覚え」のように、好きなバッハの「管弦楽組曲第二番」に、無理やりこじつけようとした感がないわけではないけれど…。

●水本 邦彦(みずもと・くにひこ)

1946年、群馬県生まれ。京都大学卒。京都府立大学名誉教授。現在、長浜バイオ大学教授。専門は、日本近世史。マクロの「鳥の眼」とミク ロの「虫の眼」を併用しながら、徳川社会の観察を進めている。

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