『宗達絵画の解釈学』
ーー「風神雷神図屛風」の雷神はなぜ白いのか
林 進
風神は宗達自身、雷神は無二の親友を描いたもの。では、その親友とは?宗達絵画の深意に迫る。
◉『風神雷神図屛風』の造形表現
◉絵のかたち、絵のこころ
◉「無常」 の発見と絵画化
◉寛永文化のなかの宗達
◉絵と書の合作から生まれた傑作
◉宗達と素庵
◉友人素庵を追善する
『 伊勢物語図色紙』
◉『風神雷神図屛風』の深意ほか
<私説『風神雷神図』が朗読劇になった!>
昨年、京都では、「琳派四〇〇年記念祭」ということで、琳派にかかわるいろいろな催し物が開催された。わたしも、まつりの渦のなかに巻き込まれた。
一〇月三一日(土)、NHK・BSザ・プレミアム「風神雷神図を描いた男 天才絵師・俵屋宗達の正体」が放映された。八九分番組の最後の五分間がわたしの説を紹介した内容、わたしの出演とコメントは三〇秒であった。
主演の女優中谷美紀さんが嵯峨化野念仏寺(あだしのねんぶつじ)の裏山、角倉素庵(すみのくらそあん)のお墓に参られ、竹林の風音を聴くシーンで番組は終わった。
盛夏、NHK京都放送局ディレクターの松井奈保子さんを素庵の墓に案内した。そのとき、すでに最後のシーンを考えておられたのではないか。「雷鳴」と「風音」は象徴的だ。
ナレーションで、「白い雷神はハンセン病で白い肌になった素庵、追いかける緑の風神は宗達自身、その友情を宗達が絵にした。素庵と宗達は大空を駆けまわって遊んでいるようだ」と林さんは考えている、と語った。放映後、松井さんは、「人間宗達」を番組に加えることができたと喜んでおられた。
翌一一月一日(日)、京都コンサートホールで「京都おもてなし音絵巻2015~琳派400年を傾く~」(三部構成)の二部で朗読劇「風神雷神図」(脚本:渡邉正城)が上演された。この朗読劇は、「宗達を検証する」after講座(ナディッフのwebで公開)に基づいた物語である。これには、わたしも、ナディッフのみなさんも、驚いた。
上演の一か月前にプロデュサーの舞踊家飛鳥左近さんと脚本家渡邉正城さんにお会いし、制作の事情をうかがった。わたしの学説は小説のような創作(つくりばなし)ではなく、大げさにいえば真理を追究したものであり、著作権に当たらない旨を伝えた。学術監修をお引き受けすることになった。渡邉さんの台本は、素晴らしい出来であった。
「果たして風神雷神図は、どのようにしてできたのか? そこには、俵屋宗達(そうたつ)と角倉素庵という、「琳派」の草創を拓いた、数奇な運命をたどった二人の芸術家の、時空を越える真の絆が隠されていた」(パンフレット)。
宗達を歌舞伎役者の片岡愛之助、素庵を中村壱太郎(かずたろう)、素庵の息子玄紀(はるのり)を藤間貴彦が好演した。語り(前ふり)は辰巳琢郎さんで、この劇は林進先生の研究に基づいて書かれたものである、と。一度きりの朗読劇は、深い感銘を残して終わった。
以上は、拙著『宗達絵画の解釈学』誕生のエピソードである。
●林 進(はやし・すすむ)
1945年、香川県生まれ。1969年神戸大学文学部卒業。財団法人大和文華館学芸部員を経て、現在、大手前大学非常勤講師。専攻は日本美術史、書誌学。主な著書に、『日本近世絵画の図像学―趣向と深意―』(八木書店、2000年)ほか。